ベドウィン社会のしきたり

先日のような大きな集まりの他に、カタル人達は普段から親族同士で頻繁に顔を合わせる。

大概は部族の中の年長者のマジリスに集う。その家の長を中心にして年配者が上席に座り、少し離れて若い連中、子どもたちは入り口近くの端の席が定位置だ。人数が増えれば子どもたちは家へ入るように促される。

マジリスに入った際に、上席(殆どの場合は入口から対面する席)の中心にその家の主とそれに親しい年長者がいるので、まずは彼らに挨拶をする。

湾岸のベドウィン独特の挨拶の仕方に鼻の頭同士をチョンと接触させるものがある。親しい間柄や年齢の近い同士であれば鼻と鼻でやる。もし相手が父親や祖父、ないしはその年代に近い年長者であれば、相手の鼻の頭や額あるいは頭にキスをするのが、最大限の敬意の表し方となる。

余談だが、顔をかなり近距離まで持っていくこのやり方は、当然ながら外国人がやるのは場合によっては失礼に当たる。若い者同士なら相手が外国人でも砕けた感じでやることもあるが、年配者や長老となれば話は別だ。特にお客という立場でやってしまうと周囲がしらけてしまう。共同体の一員でもないのに、よく知らない、親しい関係でもない相手にやるということは、その行為が心からの敬意によるものではなく、格好だけだと見えてしまうからだ。

食事の順番も決まっている。やはり長と年長者が最初に手を付ける。彼らがおいおい食べ終わるのに合わせて若い層が席につく。若い連中がが終わる頃に子どもたち、という順番になる。

年功序列。これが部族社会の最も基本となる基準だ。外国人はあくまでも「お客さん」扱いなので、そういったことを気にする必要はない。座る場所を間違えても「あちらにどうぞ」と丁寧に誘導してもらえる。食事も最初に手をつけることが出来る。

しかし、私はこの序列の中に入れられてしまったので、彼らのしきたりに従っている。彼らの社会規範の中に身を置くということは、「現地人化した」などという軽いノリとは全く違う。外国人だからと許されたことも一切妥協されなくなるということだ。粗相をしても「外国人だから」という言い訳など受け入れられない。知らなかったで済まされない。

友達のマジリスに顔を出したり、たまに他の人のマジリスに連れて行かれた際に、挨拶のために上席に並んだ年配者たちのところへ行くと、相手は当然だというように顔を近づけてくる。この服装と蓄えた髭で、例え顔つきがカタル人でなくても、「こいつは解っている」と判断されるのだろうか。そこで照れてはいけない。カタル人達がやるように真面目な顔をして、当たり前のように長老の額か頭にキスをする。

年を取った近頃ではもう出くわすことはないが、10年程前ならマジリスで自分が一番年下という場面もよくあり、そういう時には自分が年長者にガホワ(アラビックコーヒー)を注いで回ったりといったこともやっていた。

この20年を振り返ってみれば、よくもここまで来たなと思う。本当に運が良かっただけだが。

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