選べない未来

カタルの教育関連機関との提携業務の一つで、タイ深南部の大学を卒業したばかりの女子12名が、今年からドーハ市内の訓練施設で暮らしている。

彼女たちはナニーとして訓練を受け、終了後はカタール人家庭に住み込みで働く予定になっている。

ナニーとは、いわゆるベビーシッターと違い、子供の世話だけではなく教育も請け負う仕事だ。

訓練が始まって半年ほどした先月に、各自カタール人家庭での実地訓練が行われたのだが、大半の家庭において「メイド」と混同されて、炊事や洗濯といった本来ナニーがやるべきではない仕事まで押し付けられたらしい。

残念ながら、当地には「ナニー」と「ベビーシッター」や「メイド」の違いをきちんと理解している人は殆どいない。アジア人女性=メイド。つまり「自分たちでやりたくないことは全部押し付けて良い」存在だと思っているし、実際に彼女たちの何人かは「すぐ側にあるものさえ自分で取ろうとしない」カタール人に呆れたという。

無論そんな家庭ばかりではなく、気持よく過ごせた人もいたようだが、全体としての印象はけして良いものではなかったようだ。

そんな彼女たちは、ラマダーンの休暇に入るため、昨夜のフライトでバンコクへ向けて出国した。

大使館経由で彼女たちの存在を知った妻は、彼女たちが暮らす寮を訪ねたり、SNSで交流を続けている。昨日も見送りに行くと言うので空港まで連れて行った。チェックインを済ませた後で、ほんの数分しか会話を交わす機会はなかったが、若い彼女たちの妻を見る目は「頼もしい大先輩」といった風だった。何もかもが初めての国でまだ暮らし始めたばかりの彼女たちにとっては、10年以上ここに住む妻の姿は大きく見えたことだろう。

訓練中は二週間に一度だけ市内観光のようなプログラムがあるだけで、基本的に外出は不可。

妻が寮を訪ねた際に、何か食べたいものがあるかと聞いたら「KFCが食べたい」と言った。そんなファストフードさえ自分たちで買いに行くことも出来ない。寮内では調理なども禁止されており、毎日アラブ料理ばかりらしい。故郷へ戻った今頃は、タイ料理を腹いっぱい食べていることだろう。

深南部は村が多く、殆どは仕事らしい仕事もない。まして高学歴の女性がそれを活かせる機会もなく、こうして遠い国に働き口を求める。「自分探し」などという浮ついた言葉を、生きるために働く彼女たちは知る由もない。

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