内と外

今週初めのことだ。

毎週月曜日の夜は夕食会。この日もいつものように親父さんのマジリスへ出かけた。

普段通りに食事も済ませ、デザートを食べながら少し端の方に座って、さて友達と下らない話でも……と思ったら、親父さんに呼ばれて隣の席へ。

年長者と話をするのは気を使う。それが十数年付き合いのある気心知れた親父さんであっても。

しばらくして、小さな子供たちも皆食べ終わり、使用人が入ってきて後片付けを始めた頃に、一人の出稼ぎ労働者風情の男が突然マジリスに入ってきた。

こういうことは稀にある。大概が古ぼけた紙切れを見せながら「これは妻(あるいは親、家族)の診断証明書です。今すぐ手術が必要ですが、お金がありません……」と物乞いを始める者。あるいはプラスチックバックに詰め込んだウードと呼ばれるお香の一種や数珠などを売り始める者。

それ故に彼がいきなり入ってきても驚くようなことではない。

ところが、この男は手ぶらだった。

マジリスの端にいる給仕や常連の外国人客に挨拶をしながら中心へと回り、そして親父さんの前までやってきた。親父さんは険しい顔付きになり、男が差し出した手に握手をしようとはせず、

「お前、何処から来た?」

男は意外な反応に少しビクビクしながら、パキスタンから来たと答えた。そうじゃない、親父さんは「勝手にマジリスに入ってきて、お前は何処のどいつだ?」と聞いたのだ。

それから親父さんは近くにいた息子を呼び、この男を外へ連れて行って、IDカードか乗ってきた車の番号を控えておくように命じた。

息子に促されて男がマジリスの外へ出た後、親父さんが私に言ったのは、

「いいか、あれは盗人の仲間だ。挨拶に来たふりをして、マジリスにあるものを横目でチェックしていただろ?何があるか確認しておいて、数日したら仲間と盗みに来るつもりだったんだ」

100%の確信を持てなかったが、しかし男が何も持たずに入ってきたことを考えれば、親父さんの読みもあながち間違ってはいない。また親父さんが言うような被害を実際に被ったマジリスもある。一見の外国人がマジリスに入ってくるには、何かしら損得勘定があってのことで、それ以外はあり得ない。

道すがらすれ違う誰とも分からぬ相手でも気さくに挨拶を交わすこの社会だが、マジリスの中だけは別。ある意味で「許された」者だけが立ち入ることの出来る空間だ。長い付き合いの中ですっかり慣れてしまって忘れていた。自分がいかに贅沢な場所に立っているのかを。

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