挨拶と敬意

湾岸人同士の挨拶の基本は右頬を3回軽く触れさせるものだが、外国人、特に非アラブ系が相手の場合は握手で済ませる人も多い。

一方で同じ湾岸人でもベドウィン系の挨拶は独特だ。お互いの鼻と鼻をチョンと触れさせる。顔を至近距離まで近づけるこの挨拶は、通常は同じ部族や付き合いのある部族の出身者同士でしかやらない。ただし、若い世代だと相手が外国人でも付き合いの深い場合は親しみを込めてやることもある。

長老や年長者に対しては鼻の頭か額にキスをするのが最敬礼の形になる。だが、これは外国人が通常やってはいけない挨拶。何故なら、この挨拶は単なる形ではないからだ。

相手に「自分は何も(武器など)持っていない」ことを証明する行為である「握手」と違うのは、この行為は「相手に対する畏敬の念」が前提という点であり、主人と客という以上の人間関係を持たない外国人が、湾岸人になったつもりで真似をしたところで、所詮は「形だけ」だと映り、周囲の失笑をかう。

そもそも相手が外国人なら長老も顔を近づけてきたりはしないし、こちらから顔を近づけようとすれば握手している手をぐっと押し返してくる場合もある。それは「お前にはその資格はない」という意思表示だ。

どんな社会あるいは共同体においても、それぞれの立ち位置というものが必ずある。一方的な思い込みだけで相手の懐に入ったつもりになって、表面的なことだけを真似てみても、結局は余所者扱いで距離を置かれてしまう。自分の立場を自覚し、相手から期待される言動を心がける。最初の一歩はそこからしか始まらない。

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