妻の友達夫婦と食事をした。

合流のために彼らの家まで走る車内で、どこのレストランにしようかと妻と二人で悩む。日没後の市内はあちこちで大渋滞だ。いったい皆んなどこへ向かっているのか?と隣の車のハンドルを握る誰かも、こちらを見ながら同じことを思っていることだろう。

妻の友達はマレー系タイ人。妻の実家からさほど遠くない村の出身。そして彼女の夫はシリア人。内戦を逃れてタイに数年暮らしていた人だ。

パスポートの更新など様々な問題を乗り越えて、先月ようやく半年間の短期滞在ビザを取得した彼は、仕事を探すためにカタールへやってきた。

事情で数年はタイへの再入国が出来ず、もし滞在期間中に仕事を見つけられなかったら、現実的にシリアへ戻る以外の選択肢しか残されていない。一年以上前に結婚したが、彼女が年に何度か帰省する際にバンコクで顔を合わせるしかなかった。ようやく一緒の暮らしを手に入れたものの、限られた時間に気は焦る。

アラブ人なので語学に関しては問題ないが、何しろ資格を持っていないので、企業へ売り込むには厳しい面が。企業も政府セクターもローカライゼーションの真っ只中で、専門性を持たない外国人はお呼びではない。

この国では個人事業主つまりフリーランスという形態のビザはなく、就労ビザは必ず組織ないしは個人のスポンサーが必須。自身が事業主となって起業するにしても51:49の比率でカタール人の共同出資者が必要になる。そもそもそんな資金など彼は持ちあわせてはいないだろう。

何か手はないかと私も周囲に聞いて回るも、シリア人というだけで話が終わってしまう。誰もが「シリア国籍に就労ビザは出ない。雇いたがる企業はない」と。

好き好んでシリアに生まれたわけではなかろうし、彼が内戦を起こしたわけでもない。それでも生まれ持った国籍が目の前をいばらの道に変える。私自身は日本人というだけで得をしたことはないが、それで損をしたこともまた今まで唯の一度もない。

きっと良い仕事が見つかるよ。

別れ際に彼に対して投げた言葉の無責任さに心のどこかが痛んだ。

ここまで来られたのは、ただ運が良かっただけだと、ことあるごとに口にする私だが、彼の姿を見ると、それが抗えない事実だと改めて思わざるを得ない。

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