深く持続する関係のために必要なこと

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例のシリア人は未だに仕事はおろか滞在ビザの取得さえ何一つ進んでいません。

奥さんが早朝から仕事へ出かけた後は、家で料理や掃除をしながら、時折足りない食材や調味料を、部屋から徒歩3分のハイパーマーケットへ買いに出掛ける以外はほぼ引きこもり。

さすがにそれでは精神的にも参ってしまうでしょう。奥さんから様子を聞いた妻が「いつも行くマジリスへ連れて行ってあげれば?」と提案。

さほど短い付き合いというわけでもなく、ある程度は素性も知っていて、嫁さんの友達の旦那さんという明確な繋がりもある。連れて行くのに問題はありませんが、念の為に「シリア人の友達を連れて行く」という事前連絡は入れておきました。

当日、マジリスへ向かう車内で彼が「自分が困っている現状について話をしても大丈夫だろうか」と聞いてきます。

カタール人の集まりに行くことは、彼にとっては窮状を訴えて打開策を探る以外に目的はない、ということは最初から分かっていたこと。だから、彼も「行きたい」と即答したのです。もちろん私にしたって、ただ気晴らしの為に連れて行くつもりはなかったし、むしろ彼の方から可否を問われたことで、その自覚が明確になった分だけ気が楽です。

金曜礼拝を済ませてマジリスへ。

いつも一番乗りの長男が出張とかで不在。彼が一番話しやすい人なので、いないとなると作戦変更が必要に。

やがて続々と親族や知人が入ってきてはぐるりと挨拶して回る。初顔の彼に対してもにこやかに手を差し伸べるものの、子供たちはやや怪訝な顔をしています。国籍に関係なく子供というのは正直です。

最後に親父さんが登場。普段通りに鼻の頭にキスで挨拶する私に続いて、彼が握手を。当然「キミは誰なのか?」という問いかけはないし、そういった空気を彼も知ってか、自ら名乗ったりする粗相もなく、ほっと胸を撫で下ろします。

食事も済んで、13時が過ぎた頃には殆どの客がマジリスを後にします。

人がほぼ出払ったところで、次男が私の隣に座り、「彼は誰なの?紹介してくれよ」と声を掛けてきました。これは想定済みの展開。初顔の信頼を担保するのは連れてきた人間の責任。ここでいかに彼が自分にとって深い間柄であるかを言葉にする必要があるのです。

そして、次男もまた彼が何か用があってきたのだと勘づいているはず。だから、人が捌けたタイミングを待っていた。彼が周囲に気兼ねすることのないように。ならば話は早い。彼の紹介がてらに現状を説明。次男はすぐ理解して、イミグレに務める知り合いの偉いさんに話を通してみようと言ってくれました。似たようなことは何度も試して結果が伴わなかったから、今回も恐らく期待はしないほうが良いだろうとは思うのですが。それでも、こちらが頼む前にそういう言葉を掛けてもらえたことは有難い話です。

帰り道、彼は「やっとだよ。初めてカタール人を見たって感じがした」

ドーハに来てから、何人かカタール人には会ったという彼。しかし、そのいずれも個人対個人という関係の上での出会い。部族という集合体の内側を覗く、初めての体験に彼は少し興奮しているように見えました。

在留邦人からも「普段の生活上でカタール人と知り合う機会がない」「何かの折に知り合っても、その後二度と会うことがない。関係が続かない」という話を耳にします。

カタール人にとって相手との関係は「個人への興味」が主体。日本人という属性だけでは惹きつけられません。当然ながら言葉や文化、歴史といった要素への習熟度が左右することになりますし、なにより彼らとの関係性の維持は、思っている以上の時間と労力を求めてきます。自分の都合の良い時にたまに会える存在、そういう関係性を相手に求めているようでは、カタール人社会の中へは入っていけないのです。