帰還

投稿者: | 15/06/2019

 週末土曜日の午前、ハマド国際空港のアライバルターミナルに人の姿はまばらだ。離発着が増えるのは欧州あるいはアジアへ乗り継ぎしやすい夜。まだ明るい時間帯では、ドーハが最終目的地となるような乗客くらいしか見当たらない。

 先週タイから戻ってきたばかりなのに、なぜ空港へ来たのかと言うと、春先から休暇でパキスタンに帰っていた元同僚がドーハへ戻ってくるからだ。公務員とはいえ出稼ぎ労働者、私とは契約レベルの違う彼の月収では、空港から乗るタクシーでさえ大きな出費。ちょうど床屋へ行くのに空港からほど近い商業エリアに足を運ぶついでもあったので、そのまま彼を出迎えることにした。

 予定時刻よりも早く着陸したものの、イミグレで少し手間取ったらしく、出迎えロビーに現れたのは1時間ほど経った頃。毎度のことながら、顔はすっかり日焼けして、全体的に痩せたように見える。
 彼の故郷はカシミール。最寄りの空港から乗合バスで数時間。バスは山間のガードレールもないような細い道をひたすら登っていくのだという。久しぶりにラマダーンを故郷の村で家族とともに過ごした彼は「良い休暇だったよ」と嬉しそうに笑った。

 ドーハではモスクに併設されたイマーム用の部屋に、なかば強引に住んでいる。そのすぐ裏手には3月にオープンしたばかりの国立博物館。噂では周辺一帯にも再開発の予定があり、彼は「戻ってくる頃には家が取り壊されているのでは」と不安がっていた。実際にはまだモスクも部屋も健在で、部屋の中はイマームが気を利かせたのか清掃が行き届いていたらしい。

 出会ったのはドーハに着て1年後。私が本省へ異動になった時だ。官房で補助的な仕事をしていた彼と何故か気が合い、それぞれ別々の部署へ移った今でも、週に一度は顔を合わせて食事を取る。
 私のヒゲが白くなったを「年食ったなぁ、お前」とからかうが、彼だって長いヒゲがサンタクロースみたいになってきている。18年経ったんだ、そりゃ年も取るさ。

 まさか、自分がこんなにも長い間、誰かと関係を続けていくなんて、日本にいた頃には思いもしなかった。人と人との付き合いなんて、そんな長続きするものではないと、どこかで冷めていた。
 それでも、いつかは二人にも別れのときは訪れる。今は、彼が家族と会えたことを自分のことのように喜び、彼が無事に戻ってこれたことを心から嬉しく思えることに、ただただ感謝していたい。

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