そして “普通の国” になる

投稿者: | 09/10/2019

ハッジを控えたメッカ市内での一コマ

サウジアラビアが観光ビザを導入して10日間が過ぎました。その間に同国を訪れた人の数は3万人近くになるとか。この数字を多いと見るか少ないと見るか。

観光ビザ導入の報を聞いて、行ってみたいと思った人は少なくないようですが、そのうちの何人が「同国内にある◯◯を見たい」といった具体的な理由を持っていたのでしょうか?

恐らくほとんどの人は「これまで行きたくても行く手段が限られていた」つまりは「入国するのが難しい」国に簡単に入ることが出来るようになった、だから行ってみようと考えたはず。

BTSのコンサートなどわざわざサウジアラビアへ行かなくとも観ることは出来るでしょう。これまでそういった類のイベントがなかったことが売り文句であるなら、それは一度切りの魔法でしかありません。

砂漠でのアクティビティも、既に他の湾岸諸国でずっと以前から行われていて新鮮味に欠けます。他国とは比較にならない広大な砂漠地帯”エンプティークウォーター”に魅入られる外国人も数えるほどしかいないでしょうし、そこへ行くにしてもフルサイズのランクルが数台のキャラバンを組む必要があって、個人の旅行者が簡単に足を踏み入れられるわけでもありません。

ならば何故サウジを訪れようとする人がいるのでしょうか。それは “珍しいから” です。これまで他の誰も行ったことがないから行くのであって、そこにしかない何かを見に行くためではありません。すなわち、誰しもが行くようになれば、その価値がどんどん下がっていくわけです。

サウジアラビアという国最大の魅力は間違いなく “閉ざされた国” という部分にこそあったのです。ミステリアスなイメージ、人々はそんなサウジアラビアに心惹かれていました。国を開放したことで、今やその魅力を失いつつあります。これから観光立国として立ち振る舞っていくには、目まぐるしい速さで新たなコンテンツを提供し続ける必要が生じるでしょう。同じように脱石油を目指し観光産業に力を入れてきたドバイがお手本なのでしょうが、彼の国もまた”止まったら終わり”という病に侵されています。

やがてはサウジアラビアも “普通の” アラブの国になるでしょう。
周辺地域での各国で差異のないコンテンツを見ていれば、今更 “サウジアラビアにしかないもの” などないことは明白。恐らく次に狙うのは国際規模のイベントの誘致。それはドバイやドーハとの牌の奪い合いに発展し、最終的には潰し合いが始まって、サウジアラビアどころか地域全体にとってマイナス効果しか生みません

この一帯、断交以前から色々とありました。仲良くやって欲しいとは思うのですが、それが難しいことも肌で感じているのも本音。それでも以前は、サウジアラビアに対する敬意のようなものが、どの国にもありました。それが良い意味で湾岸諸国間に適切なテンションを与え、関係を保持する力になっていたのです。性急すぎる変化は、そういったものまで破壊してしまったのでしょうか。

余談になりますが、鮮度が薄れると、より刺激を求める連中が、メッカやマディーナといった聖域になんとかして潜入しようとするかもしれません。当然ですがトラブルは起きます。観光客自身が被る被害など自業自得の範疇ですが、一方で「異教徒の侵入を許した」という口実をテロリストたちに与える格好になる可能性も。加えるならば、日本をはじめとした”ムスリムが少数派”の国からムスリムが実際に巡礼のためにメッカへ入ろうとする場合、パスポートなどに宗教欄がない国から来た者は、より厳しい目で見られるようになることもないとは言えません。