それぞれに、人生

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床屋が営業再開してから早1ヶ月半。行きつけの床屋も店員の検査手続きなどで手間取り、再開がやや遅れましたが、今では通常通りに店を開いています。

今週もいつものように土曜日の朝から顔を出しました。

店の中にはネパール人の店員が一人。以前店番だったインド人は昨年秋頃に一時帰国したまま。オマーンにいたところを親族の店主に呼ばれてカタールへやってきたものの、仕事量とそれに釣り合わない収入に不満はあった様子

カタールのレジデンスパーミット(RP)を所有する外国人が国外に滞在できる期間は決められています。その期限の6ヶ月が過ぎる寸前に店主が呼び戻そうとしましたが、運悪くインドがロックダウンに入ってしまいました。

ネパール人店員は椅子に腰掛けてスマホで何やらおしゃべり中。何を話しているのかはサッパリわかりませんが、私の顔を見た彼が話し相手に「客が来たからまた後で」と言っているだろうことは想像できます。

他に待っている客もいないので「もう少し話しててもいいよ」と言おうとしたところ、店員がスマホを私の前に出して画面をこちらに向けました。

「息子なんだ」

8歳になるという子供がスマホの小さな画面の向こうで照れたように俯いています。

普段は口数の少ない人でも家族のこととなれば饒舌になるのは、外国人労動者の共通点でしょうか。4歳と8歳の息子がいること、父親が2年前に血液ガンで亡くなったこと、その時の治療費を払うためにカトマンズにあった店や持っていたバイクを売り払ったこと、色んなことを矢継ぎ早に話しながら、慣れた手つきで散髪の準備をします。

彼の故郷はゴルバザルという小さな村。首都カトマンズから乗合タクシーで5時間以上かかるそうな。

あちらの通信環境のせいか、カクカクと映し出される画面。タクシーではたどり着くことのできない遠い国から送られてくる映像。そんな働く父の姿を、息子はどんな思いで見ているのでしょうか。

福嶋タケシ